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2022.8.15 安倍元首相の「国葬」に反対する(声明)

安倍元首相の「国葬」に反対する(声明)
2022年8月15日
東京地区大学教職員組合協議会(都大教)幹事会

私たち東京地区大学教職員組合協議会(都大教)は、岸田政権が今年9月下旬に安倍晋三元首相の「国葬」を計画していることについて、次の理由からこれに反対し、計画の中止・撤回を求める。

1.民主的で平等な社会に「国葬」はなじまない
どんな理由があろうとも、殺人が許されないことはいうまでもない。そうした犯罪によって命を奪われた安倍氏、残された御遺族に対し、衷心よりお悔やみを申し上げる。
しかし、そのような死を理由に、法的根拠なしに政府が「国葬」を行うことは、法に基づく行政の原則に反する。そればかりでなく、日本国憲法下で成立した平等な個人の尊厳に基づく民主的な社会の基本原理にもとるものである。
日本国憲法下での1967年の吉田茂元首相の「国葬」は、当時の佐藤首相の強い意向のもと、法的根拠を欠くと指摘されながら吉田氏の死後短時日のうちに強行されたもので、前例とはなり得ない。
国葬の制度はありつつも、国家元首経験者が生前に辞退することで実施はしない慣行が近年定着してきた国もある。国葬という制度と社会の民主的なあり方との緊張関係が意識されていることの一つの現れであろう。
8月3日に臨時国会が召集されたが、野党の要求にもかかわらず「国葬」に関する質疑を一切行うことなく閉会された。このまま事態が推移すれば、日本は法に基づかない「国葬」を一度ならず二度までも、国政の場における議論の積み重ねを何も残すことなく実施してしまうことになる。
私たちは民主的で平等な社会の形成者を育てる大学の一員として、国家が人の死に軽重を設定し、特定の権力者の死のみを重く扱う「国葬」に反対する。

2.「国葬」を理由に市民生活や教育活動を制約し、弔意を強要することを懸念する
前項で触れた吉田元首相の「国葬」時には、テレビの娯楽番組は中止され、吉田氏の功績を称える追悼番組が流され、全国各地で吉田氏への弔意を表す黙祷が行われるなど、市民生活が大きな影響を受けた。近年では、中曾根康弘元首相の「内閣・自民党合同葬」において、大学を含む教育機関に対しても弔旗掲揚など弔意の表明が要請されたことは記憶に新しい。
こうした「前例」や近年の状況を踏まえると、9月下旬の平日に計画されている安倍氏の「国葬」においても全国規模で市民生活への制約や弔意の強要が予想される。特に国公立の教育機関に対しては、弔旗掲揚、機関の長による追悼談話など機関としての弔意表明を求められる、教職員や学生・生徒・児童個人に黙祷など追悼行事への参加が求められるなど、露骨な介入対象となるおそれが強い。
これらは、すべて法に基づかない「国葬」を政府があえて強行することで生じる自由な市民生活への不当な制約である。特に教育機関に対して行われる介入は、教職員や学生・生徒・児童の思想・良心の自由を侵害し、本来の教育の目的達成を阻害するものである。
私たちは一市民として、また国公立の教育機関に勤める教職員として、また子どもを学校に通わせる親として、「国葬」による市民生活への、そして公教育への不当な制約や介入に反対する。

3.「国葬」を契機に安倍元首相とその政治を美化し、過ちが糊塗されることを懸念する
最後に、今回計画されている「国葬」の政治的意図にも触れざるを得ない。
安倍氏を殺害した容疑者の犯行動機の供述や不幸な生い立ちに関する報道をきっかけに、統一教会(世界基督教統一神霊協会、現世界平和統一家庭連合)の活動の反社会性や、安倍氏を中心とする保守政治家との密接な繋がりが改めて明るみに出され、多くの市民の間に強い社会的驚きと憤りが生まれつつある。この統一教会と政権与党との密接な繋がり故に、報道機関の統一教会問題報道が圧力を受け急速に鎮静化する事態も生じかねない。「国葬」はそうした圧力の恰好の機会となり得る。
また、7年8カ月に及んだ第2次安倍政権は、人の命にかかわる問題も含め、多くの禍根を残してきた。いわゆる「森友事件」では、政治的圧力から職務上知り得た事実を曲げることを余儀なくされ、自殺に追い込まれた公務員がいた。憲法9条に明白に違反して自衛隊が海外で「殺し、殺される」ことに道を開く安保関連法が強行成立された。安倍元首相の「国葬」は、こうしたことの全てに蓋をし、今後の追及や検証を否定する道を開く政治的意図に基づくものとの疑念が払拭できない。
私たちは民主主義を大切に思う市民の一人として、権力者の過ちを糊塗し、全てを過ぎたこととして美化する政治イベントとしての「国葬」に反対する。

以上